「脳梗塞(脳こうそく)」を含む脳の病気はいくつかありますが、どれも基本的に「脳の血管」に何らかの異常・障害が起き、脳の機能の一部が壊れてしまうことで発症します。
そのため、脳梗塞を含めたさまざまな脳疾患を、広い範囲で「脳血管障害(疾患)」と総称しています。
この「脳血管障害(疾患)」は、「脳の血管が破れる」かあるいは「脳の血管が詰まる」ことによって、もたらされるものです。
脳血管障害は一般的には「脳卒中」と呼ばれていますが、現在はがん・心臓病に次いで日本人の死因の第三位となっています(日本人の平成20年死因順位(厚生労働省))。このうち脳梗塞が、脳卒中による死亡全体の6割以上を占めています。
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「脳の血管が破れる」ことによって脳障害を起こす病気の代表例としては、「脳内出血」「くも膜下出血」があります。
「脳の血管が詰まる」病気の代表例が、ここでご説明する「脳梗塞」です。
脳梗塞は、血のかたまり(血栓)ができて血管がふさがり、血液を通じてその先の脳細胞に酸素や栄養を運ぶことができなくなるために、脳がダメージを受ける病気です。
脳の血管が詰まり、脳に血液が十分にとどかない状態(「脳虚血」といいます)が長く続き脳細胞が壊死(部分的に死ぬ)するわけです。
脳梗塞は発生原因別に、「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)」「ラクナ梗塞」の三つに分類されています。
「アテローム血栓性脳梗塞」は、動脈硬化によって頸動脈などの血管壁内部に「アテローム(脂肪のかたまり)」による血栓ができ、血管が詰まってしまうものです。
「心原性脳塞栓症」は、心房細動や心筋梗塞などによって心臓にできた血栓が脳にまで運ばれ、脳の血管を詰まらせるものです。
「ラクナ梗塞」は、高血圧などを原因として脳の細い末梢血管に梗塞ができるものです。
日本人の脳梗塞で現在もっとも多いのがラクナ梗塞で、高齢になるほど多く見られます。
脳内に小さな梗塞巣(こうそくそう、脳細胞の死滅部分)ができますが、この数が増えることで認知症の原因となる場合もあります。
ただし最近は高血圧への対策などが進んだこともあり、「ラクナ梗塞」は減少傾向にあります。
その一方で、生活習慣病の増加を背景とした「アテローム血栓性脳梗塞」や「心原性脳塞栓症」は増加傾向にあるとされています。
特に心原性脳梗塞は脳梗塞の原因のおよそ3割を占め、不整脈のひとつで突然死の原因ともなりやすい「心室細動」は、脳梗塞の天敵とも言えます。
心室細動も高齢者になるほど、多く発症します。梗塞巣が非常に大きくなることが多く、血管の破裂による脳内出血を伴うこともあるため、発症時の症状も命に関わるような重いものになりがちです。
時間帯でみると、血圧がもっとも低くなる夜中から明け方にかけて血栓がもっとも作られやすい状態になるため、たとえ睡眠中であっても、ラクナ梗塞やアテローム梗塞を起こすことがあります。
また朝の起き抜けの活動開始時は心臓にできた血栓がはがれやすい状態になっているため、心原性脳塞栓症が起きやすい時間帯とされます。
脳の病気のなかでも特に高齢者に多いのが、この「脳梗塞」といわれます。
しかしながら単に加齢だけが病気の原因というわけではなく、やはり高血圧や糖尿病・心臓病、喫煙や飲酒などによる生活習慣の乱れが危険因子となって起きる「生活習慣病」のひとつであることも確かです。
脳梗塞はどちらかといえば女性よりは、男性に多い病気となっています。
また、脳梗塞は再発しやすい病気でもあります。
その再発率は年間およそ2~3%程度ともいわれ、もし脳梗塞となった場合、発症後1年間程度は十分気をつける必要があります。
脳血管障害(疾患)全般にそうですが、脳梗塞においても突然発症し、数分から数時間で急速に症状が進みます。
血管が詰まった箇所の脳が機能的に壊死(えし)しますが、その後は病状が安定しそれ以上拡がるといったことはほとんどありません。
しかし脳梗塞となってしまった部分については、すでに脳細胞が死んでいるために再び回復させることは困難です。
脳梗塞の前兆として、患者2~3人に一人の割合で、「手足に力が入らない」「重いめまいがする」「いつもはない激しい頭痛がする」「ふつうの頭痛とは明らかにちがう感じの頭痛が、突然起こった」「特に手足やからだの半身が、突然しびれた」「ろれつが回らない、言葉が一瞬でてこなくなる」「片側の視界が一時的に真っ暗になる」「物が二重にみえる」などの症状があらわれます。
これらは程度の差こそあるものの、一般にどのタイプの脳梗塞でも見られる前兆です。
「めまい」や「まひ・しびれ」は他の病気でも起こる症状であり、脳梗塞の前兆かどうかはまず専門医の診察を仰ぐべきです。
ただし、まひやしびれが身体半分に突然起こったときは脳梗塞の可能性が非常に高いと考えられるため、一刻も早く医療機関を受診する必要があります。
まひ・しびれは「体の片側」に起きるのが特徴で、症状は1~2分でおさまる場合もあれば、1時間程度続くこともあります。
また「顔のゆがみ」や「口もとのしびれ」が前兆として現れることもあります。これらは「一過性脳虚血性発作(TIA)」と呼ばれ、小さな血栓が一時的に血管を詰まらせることで起きる症状です。
この「一過性脳虚血性発作(TIA)」が脳梗塞の前触れとして起きる確率は全体のおよそ3割以下といわれており、外部から脳梗塞のサインをはっきりと認識できるケースが、意外にも少ないのが現実です。
すなわち、「脳梗塞は、前触れなく突然起きるのがむしろ普通」であることは、知っておく必要があります。
「一過性脳虚血性発作(TIA)」は、時間にして数分から数十分程度であり、一日もたつと症状が治まってしまうことからそのまま病院に行かない人も多く、これが事態を悪化させている現状があります。
脳梗塞の前兆として必ずしも一過性脳虚血性発作(TIA)の症状が現れるとは限らないことが、ますます判断を難しくしています。
いずれにせよ上記のような症状がみられた場合は脳梗塞を疑い、一刻も早く脳神経外科を訪れて検査を受ける必要があります。
いったん良くなったように見えてもこのような前触れ症状があった場合、その後さらに大きな発作が続くケースが大半だからです。
一過性脳虚血性発作(TIA)を放置した場合、そのおよそ15~20%が3ヶ月以内に脳梗塞を起こすとも言われます。
医学的には、「TIAは、発作の直後から脳梗塞に移行することが多い」ため、医療機関で一刻もはやく治療を行うことによって後遺症の発生などをできるだけ防ぐというのが、今日的な考え方となっています。
このような症状がみられる段階ではまだ脳梗塞の前段階となる脳虚血の状態であることが多いため、検査でふさがった血管を見つけて血栓を取り除き、血流を再開させることができるなら、脳の活動を再開させ後遺症も最小限に抑えることができるからです。
脳血管障害(疾患)の場合、一般に時間がたてばたつほど障害が広がり、後遺症も重くなるという特徴があります。
逆から言えば、危険信号をキャッチして早期治療に至るかどうかがその後の病状を大きく左右することになるため、自己判断をすることなく必ず病院に行き、CT(脳のX線撮影)やMRI(脳の断面図画像化)・MRA(脳血管撮影)による脳の画像診断・検査を行うべきです。
脳梗塞の具体的な症状は、「脳細胞のどの部分が壊死したか」によっても異なります。
壊死や出血の部位・程度によって、運動・記憶・言語・視覚などに障害が残る場合があります。
たとえば、手足の動きに関する部分であれば、手足がしびれたり、麻痺して歩行が困難になったりしますし、言語に関する部分であれば、ろれつが回らなくなったり言語障害が起きたりします。
顔半分に麻痺が残ったり、突然一時的に片目が見えなくなる「一過性黒内障」と呼ばれる症状におちいる場合もあります。
精神面では、思いがけず病気にみまわれたことに本人がショックを受けてうつ状態になったり、情緒が不安定になって家に閉じこもりがちになるケースも少なくありません。
また高齢者の脳梗塞が寝たきりにつながった場合は、介護の直接の原因ともなり得ます。
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「隠れ脳梗塞」は、正式には「無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)」といわれ、その名のとおり本人はこれといった兆候を感じないものの、これまで既往症のない人の脳内にごくごく微細な血栓(梗塞)ができるものです。
脳ドックにおけるCTやMRI検査などによって、偶然発見されるケースが多いといわれます。
いわば「脳梗塞の予備軍」であり、将来的に脳梗塞を発症する確率も高くなる注意信号と捉えるべきです。
無症候性脳梗塞を有する人はそうでない人に比べ、その後の脳血管疾患を7倍起こしやすいという追跡調査もあります。
脳梗塞と同様、基本的には歳をとるごとに隠れ脳梗塞となる割合もまた高まってくるのですが、最近では30~40代の比較的若い世代においても増えてきている、典型的な「生活習慣病」であるといわれています。
そして隠れ脳梗塞を引き起こす主な危険因子もまた、高血圧・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)といった生活習慣病なのです。
特に隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)の最大の危険因子は「高血圧」なので、予防のためにはまず血圧の管理が第一となることを覚えておきましょう。
隠れ脳梗塞においても、その前兆となる症状は脳梗塞と同様ですので、思いあたる節があるならば、やはり専門医の早期診断を受ける必要があります。
脳梗塞・隠れ脳梗塞ともに、加齢に伴って発症率が高まる病気であるため、その意味では発症を完全に防ぐことは難しいかもしれません。
しかし脳梗塞は、生活習慣に気をつけることによって発症リスクを減らせる、後天的な要因にもとづいた「生活習慣病」であることもまた確かです。
すなわち肥満・運動不足・喫煙・飲酒といった「生活習慣病の様々な危険因子」を減らしていくことが、年齢を問わず脳梗塞に対する予防策として機能します。
また、前兆に気づいた時や初期症状の段階で、専門医の適切な治療を受けることによって、回復度合いを大きく高め、一方で再発のリスクを下げると同時に後遺症を最小限に抑えることができる病気でもあります。
治療の基本的方向としては、血管を詰まらせた血栓を取り除くことによって、血流の再開をはかっていきます。
投薬で血栓を溶かしたり、また手術によって血管を広げる治療を行うケースもあります。
2005年10月に日本でも保険適用となった「tPA」という名前の血栓を溶かす米国の薬が、注目を浴びています。
現在は全国の都道府県において、tPA治療を受けることが可能になっています。
ただし現時点でtPA治療が行えるのは脳血管疾患専門の医療機関などに限られるため、救急車で搬送されるときの初動の判断を誤らないことが肝要です。
このtPAは、「発症から3時間以内に投薬しなければならない」という時間的制約があるために、発症からあまりに長時間経過した場合などは投与が受けられない、といった難点があります。
これは発症から3時間以上経過すると、血管がもろくなって脳出血が起きるリスクが高まるためです。
なお「tPA」はたしかに脳梗塞の代表的な治療法のひとつではありますが、症例や状況に応じて血栓の発生を防ぐことに重点をおいた治療が選択される場合もあり、脳梗塞だからといって必ずtPAが投与されるというわけではありません。
「tPA」は脳の血栓を溶かし血液を固まりにくくする治療のため、以前に脳梗塞を経験していたり、あるいは梗塞の範囲が広かったりする等、出血のリスクが高いときには投与できないケースもあります。
また、すでにtPA投与が間に合わないなどの緊急時には、脳動脈に「カテーテル(非常に細い管)」を通し、血管のつまりを物理的に解消する手術が行われる場合もあります。
(脳血管カテーテル治療は専門医の高度な技量が必要とされ、手術を受けられる医療機関は現状限られています。)
このカテーテル治療も、「発症してから6時間以内」には行う必要があるとされています。
ただしこれらの時間的制約は、「tPAは発症から3時間以内に投与さえすればOK」といった話では決してなく、1時間程度はかかる事前の検査や、検査結果を受けた判断の時間を含めての「3時間」「6時間」であることを、よく留意しておく必要があります。
いずれにせよ、「脳梗塞が疑われるような場合は、時間の経過がその後の運命をわける」と考え、ただちに脳神経外科で診察を受けなくてはなりません。
脳梗塞の急性期治療の技術進歩によって、死亡率そのものは低下しつつある一方、適切な治療タイミングを逃したことによる後遺症の発症と、それによる日常生活の質の低下が、代わって大きな問題となりつつあります。
そのような面からも、脳梗塞はいかに早期対応・早期治療が大事かを、肝に銘じておく必要があるわけです。
最後になりますが、脳梗塞のための食事・食事療法については、関連サイト「脳梗塞と食事~予防・改善に向けた食事療法」、そして脳梗塞のリハビリについては「脳梗塞のリハビリと後遺症 押さえておきたいポイント」をあわせてご覧ください。
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